『ポスト世俗化時代の哲学と宗教』
岩波書店、2007年。
御大ハーバーマスと、後の教皇ラツィンガー枢機卿とが、2004年1月にミュンヘンで行った歴史的対話の記録。
残念ながら、両者のいわば基調講演のみが今回の翻訳で、その後の討論の部分は公開されていない。
日本では、ポストモダンといえば相対主義に行き着いたまま雄々しく思考停止し続けいてる感があるのだけど、その先の対話を大物同士がやっちゃうというのは、ヨーロッパっていいなぁ、としか。
それ自体では手続き合理性でしかない民主主義の国家権力に対して、ハーバマスは「単なる共存体制=暫定協定」以上のものを志向して論を展開していく。
世俗化された市民は、国家公民としての役割において公共の場で論じるときは、宗教的な世界像には原理的に見て真理のポテンシャルがないと言ってはならないのであり……
と、言ってるにもかかわらず、訳者解説が見事にやらかしちゃってる件。ま、宗教音痴の日本では仕方ないことかも知れないけど。
訳者解説(本書の半分は解説)では、共産主義を恐れるあまりカソリックはナチズムとも手を組んだ……的なストーリーが語られてるけど、これをそのまま冷戦時代に持って行ったのが、『aa 1025』という胡散臭い偽書になるのかなぁ、とか。旧ソ連の工作員がカソリック教会に入り込み、たまたま交通事故で病院に運び込まれたときに持っていた文書……という設定の偽書なんだけど、出自のデタラメさに反して、同種のシオンの議定書と同じく、中身に関してはとてもリアリティがある。カソリック自体に興味がなくとも、近代批判の視点からだけでもとても面白い怪文書。
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