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May 02, 2010

ユイスマンスとオカルティズム

 高い本だったけど、以前『ユイスマンス伝』が出たとき、さんざん迷って結局買って面白かったので、今回もどうせ買うことになるだろうと、本屋でみて即決。

 フロイト-ラカン-クリステヴァ系列の精神分析の手法なので、議論自体はまるでピンと来ないし、そもそも信仰への嗅覚のない人なので、問題設定自体が疑似問題に見えてしまって、肩肘張って論証されてもそれが大したこととは思えないというのはあるんだが、神秘への嗅覚はないわけじゃないんで時々引っかかってくるのと、論証の過程で引いてくる草稿の比較や歴史的背景は、読んでるだけで面白い。ガイタとブーランの魔術戦争なんていう、一部方面で有名な逸話を、ユイスマンスは身近に目撃してたんだなぁ、とか。

19世紀が自然科学全盛のように見えていかにオカルティズムの世紀であったか、というのは、現代も変わりない。オカルティズムは歪められた宗教への憧憬なのだから。

著者はネオリベ批判の本を共同編集してたりして、その辺は共感できるところも多々ある。日本の大学はたぶんもうダメだけど、「成果」を数字にできない人文学的な真理や美や善を追求する方法って、大学以外に見いだすしかないんじゃないかな。天文や考古学の裾野が、生業を他に持つアマチュアのマニアに広がっているように、文学や哲学も権威を大学に囲い込むのをやめて、ちょっとは裾野を広げればいいと思う。で、すごく能力のある人はパリ大学でも何でも行けばいいのだし。もう、狭い日本であれもこれも専門教育を受けられるのが当然という時代は終わるのじゃないかな。教養と呼ばれていたものが根こぎにされた社会ってのも、さびしいものではあるけど、フランス文学やりたければフランスに行くのは、ある意味当然なわけで。留学奨学金がもっと増えなきゃ、それを言うのも酷か。

この時代にこんな(何の役にも立たない)本を出版すること自体が挑戦である!!みたいな自負心ぷんぷんの本なんだけど、まんまと乗せられて買っちゃいましたね。初版500部くらいかなぁ。紙の本じゃなきゃダメなのかなぁ。ネットで2千円くらいでDLできれば助かるんだけどなぁ。

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