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May 2010

May 19, 2010

ウォーラーステイン

 水野和夫さんの『100年デフレ』で、さかんに引用、参照されていたので、ウォーラーステインってどんなんだろう?と思ってダンナに「知ってる?」と聞いてみると、「確か昔買ってあったのが……」と言って『大航海 No.21(1998.4)』 “特集:ウォーラーステイン以後”というのを出してきてくれた。

 もともとアフリカ研究をやっていた人で、アフリカで民主化や経済発展がいっこうに進まない理由を調べるうち、近代化において「進んでる」「遅れてる」があるわけではなく、アフリカは「低開発化」という形で、近代という「世界システム」の一部に取り込まれているのだとの考えに至ったらしい。システム内に取り込まれている限り、周辺が経済発展することはなく、近年の新興国の発展は、近代という世界システムが転換期を迎えているのを示している、ということになりますね。

 ウォーラーステインのリベラリズム批判に関しては、マルクス臭のする逆批判がいくつもあったりしたけど、それほど興味はひかれないかな。アメリカン・リベラリズムへの批判が実際のところ民主主義批判の射程を持ってることの方が面白い。
 あと、「哲学の神学からの解放」と「科学の哲学からの離婚」のことを、ウォーラーステイン自身がさらりと語ってたけど、やっぱこの辺は興味深い。認識に関するスコラ学の繊細な議論が、近代になるとまるで見えなくなっちゃうってのは、何なんだろう。

 余談的には、西欧近代がブレーキのブチ壊れた文明だという今村仁司と岸田秀の対談が載ってるんだけど、つまりは、人を殺していいと思ってる奴らの方が、人を殺すのは悪いことだというタブーを保ってる側より、常に暴力において勝るという話をしてて、ああ、不殺生というタブーを保ったヒーローが、ブレーキのブチ壊れた敵と戦うってのが、るろ剣やトライガンだったなぁ、などと感慨深く思った。

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May 13, 2010

京割烹いない

イギリスから一時帰国中の友人とその同僚の方と共に、和食へ。
高辻高倉の角にある京割烹いない。激ご近所。

予約なしでふらりと入れるので、とても重宝している。夜のコース6000円からという価格帯の割烹で、このレベルの料理が出てくることに京都の底力を感じちゃう。きっとしっかり修行した店主さんなんだろうなぁ。何か個性を主張するわけでもなく、あくまで淡々と京料理を提供している感じ。
今日のヒットはすっぽんのお雑煮。
懐石のコースがお勧めだけど、実はお寿司も美味しい。以前いただいた穴子の握り、今も忘れられません。

あと、接客のおかみさんの愛想が、以前より断然良くなったような……。聞かなくても料理の説明をしてくれたら、更に二重丸なんだけど。

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May 10, 2010

B レギューム・ア・ターブル

久々のフレンチは、四条油小路上ルのBレギューム・ア・ターブルにて。

自家製スモークサーモンのアミューズ
マリネしたスズキのサラダ仕立てサマートリュフとバジルソース
バニラアイスを一かけ浮かべた空豆の冷製スープ
蒸した金目鯛と京筍にウニのソース木の芽風味
鴨ローストのキャラメリゼとジャガイモのセルクル
あとチーズ二種とカモミールティー

お腹いっぱいです。
空豆のスープにバニラアイスはどんなもんかなぁと思ったけど、溶かして混ぜながら口に運ぶと、ほんのり甘みのあるクリームという感じになり、空豆の甘みと重なって、違和感はない。

この店もお客さん増えてきたようで、一安心。香りに敏感なシェフの料理で、野菜がおいしい。一皿のインパクトは薄いけれど、どの皿もハズレが無い。コースですんなりと楽しめる、室内楽系。テーブルの配置のせいでカトラリーのサーブがぎこちなくなるのが難点だけど、フロアの人も親切で、ピーク時には厨房スタッフも配膳に回るなど、工夫してやりくりしている感じ。

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May 09, 2010

けいざい!!

水野和夫『100年デフレ』。

経済史の視点というのが新鮮で、飽きずに読めてしまった。
現在のグローバル経済の進展が、農業の開始、封建制の崩壊に次ぐ人類史3回目の大転換だとの認識を、中世以来の利率や物価などなどのデータを用いて示す手際なんか、ほれぼれする。
20世紀型の「インフレになれば何もかも上手くいく」という考え方は、グローバル経済のもとでは通用しないな、と説得されてしまった。資産デフレ、利子率革命…思考の道具をいろいろ教えてもらえた感じ。

数式も出てくるんだけど、経済学って案外ザッパーだなと。ただ、為替がからんでくると一次元増えるみたいにややこしくなる。

経済成長が無限に続くと思ってるのかどうかだけ聞いてみたいけど、とてもまともな視点だと思った。

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May 02, 2010

ユイスマンスとオカルティズム

 高い本だったけど、以前『ユイスマンス伝』が出たとき、さんざん迷って結局買って面白かったので、今回もどうせ買うことになるだろうと、本屋でみて即決。

 フロイト-ラカン-クリステヴァ系列の精神分析の手法なので、議論自体はまるでピンと来ないし、そもそも信仰への嗅覚のない人なので、問題設定自体が疑似問題に見えてしまって、肩肘張って論証されてもそれが大したこととは思えないというのはあるんだが、神秘への嗅覚はないわけじゃないんで時々引っかかってくるのと、論証の過程で引いてくる草稿の比較や歴史的背景は、読んでるだけで面白い。ガイタとブーランの魔術戦争なんていう、一部方面で有名な逸話を、ユイスマンスは身近に目撃してたんだなぁ、とか。

19世紀が自然科学全盛のように見えていかにオカルティズムの世紀であったか、というのは、現代も変わりない。オカルティズムは歪められた宗教への憧憬なのだから。

著者はネオリベ批判の本を共同編集してたりして、その辺は共感できるところも多々ある。日本の大学はたぶんもうダメだけど、「成果」を数字にできない人文学的な真理や美や善を追求する方法って、大学以外に見いだすしかないんじゃないかな。天文や考古学の裾野が、生業を他に持つアマチュアのマニアに広がっているように、文学や哲学も権威を大学に囲い込むのをやめて、ちょっとは裾野を広げればいいと思う。で、すごく能力のある人はパリ大学でも何でも行けばいいのだし。もう、狭い日本であれもこれも専門教育を受けられるのが当然という時代は終わるのじゃないかな。教養と呼ばれていたものが根こぎにされた社会ってのも、さびしいものではあるけど、フランス文学やりたければフランスに行くのは、ある意味当然なわけで。留学奨学金がもっと増えなきゃ、それを言うのも酷か。

この時代にこんな(何の役にも立たない)本を出版すること自体が挑戦である!!みたいな自負心ぷんぷんの本なんだけど、まんまと乗せられて買っちゃいましたね。初版500部くらいかなぁ。紙の本じゃなきゃダメなのかなぁ。ネットで2千円くらいでDLできれば助かるんだけどなぁ。

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