ル・クレジオ 『メキシコの夢』
J.M.G. Le Clezio Le Reve Mexicain -- ou la pansee interrompue, 1988の邦訳。新潮社、1991年。 これは大学院の受験勉強をしている時期に、どっかの書評で読んで目にとまって、その1年で読んだ本の中でベストワンだったのを覚えている。
邦訳の腰巻きにはレヴィ=ストロースによる推薦文がある。
ル・クレジオは昔の記録家の証言を鮮やかに蘇らせるとともに、アメリカ大陸のインディオ文明全体とのつながりの中に、西欧人には信じられなかったメソアメリカのさまざまな事物を素晴らしいエクリチュールによって描いている。……
ル・クレジオはたまたまこの一冊だけ読んだことがあったのだけど、読んだことのある作家がノーベル文学賞を取るのは、珍しい。
一つには、近年では西欧、そして日本を含む先進国の作家は、それ以外の国々の作家とバランスをとるために、順番が回ってくるのが遅い。
もう一つは単純に、私が現代作家の本をほとんど読まないからだ。思想家の著作は、存命中の人たちのも読むけれど、文学はよほど信頼できる知人からの口コミでない限り、ほとんど現代作家のものは読まない。歳月の摩耗に耐えたものだけでも読み切れないほどあるわけだし。
スペインが征服する以前のメキシコ、メシーカ族を中心としたインディオの儀礼と思考を再現し、その血まみれの祭儀の意味を読み解き、征服者によって沈黙を強いられた文明の、中断された思考に耳を傾ける……というような内容だった記憶が。西欧の倫理観で裁くことの傲慢とか、残酷な神の神聖性とか、印象はいろいろ残っている。大学院で学ぶ前に読んだから、今読み返すと粗が見えるのかも知れないけれど、まぁ、村上春樹では知性のレベルが勝負にならないんじゃないかな。
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