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January 03, 2007

戦災復興マンガ『不死鳥のタマゴ』

 戦災復興マンガつながりで、『パンプキン・シザーズ』より前から読んでいた作品をもう一つを紹介しとこうかと思います。
 
『不死鳥のタマゴ』全3巻 紫堂恭子 角川アスカコミックスDX

 こちらは舞台設定が現実にベースを置かないピュア・ファンタジーでコメディ・タッチですが、テーマのシビアさは、実は紫堂作品の中でも久々の大物だったと思います。

 内戦が終わり、新政府の保安隊員としてエルダーという田舎町に赴任してきたクリスは、戦時中敵対した王党派寄りの土地柄から、村人に反感を持たれるなど苦労していた。ある日、ボロ雑巾のような鳥の雛を拾って帰ると、それが人の言葉を話す不死鳥のヒナで…「ちゅん」ちゃんというそのヒナの、暴走するラヴ・パワーに振り回されっぱなし…というお話。

 手柄が立てたいなら本隊で王党派の残党狩りをすればいい、という先輩隊員に、「…内戦はもう終わりました。残党狩り以外にも仕事はあるはずです」というクリス。彼がエルダーに来た目的は、内戦中、彼が崖から落ちて大けがをした時に助けてくれた恩人--顔も声も分からないがエルダーの出身とだけ分かっている、敵兵だった誰か--を見つけること。

 熱意と誠意で次第に人々に迎え入れられていくクリスだったが、王党派の兵士だったヒューが町に戻ってきて、敵意をむき出しにされる。ヒューにとって、戦火を免れた故郷、変わらぬ風景と人々の中にとけ込むかつての敵兵クリスに比べ、戦場帰りの自分だけが異質なものであるように感じ、もとに戻れずに苦しんでいたのだ。
 レストランで働く村の娘キャロルは、戦死した父の最期の様子を知りたいと願っている。兵士だったクリスとヒューは、キャロルの父が死んだ戦いのことは聞き知っていた。だが、敵味方双方が孤立し補給をたたれ、飢えと病気で地獄さながらの様子だったというその噂をキャロルに告げることは出来ない。
 ヒューとクリスは反発しながらも接していくんだけど、二人とも、たまたま生まれた土地が王党派と議会派だっただけで、自分でどちらかの陣営を選んだわけではない、ということも分かり合っている。「誰だって同じさ。そんなもんだ」「そうだよな…そんな理由で戦うんだ」
 クリスはヒューに向かって言う。老人や子供やキャロル達、エルダーの町の人たちが戦いの被害者であるのに対して、「俺たちは、俺たち二人だけは皆と違う…戦いの、加害者でもあるんだ…」

 不死鳥のヒナちゅんちゃん、吸血こうもりだこのちちち、ゴブリンのゴブ子さんなど、ファンタジックなキャラクターに引っ張られて話が展開していくので、深刻な背景を女の子読者にも受け入れられるよう配慮されている。まぁ、その分、物足りなさは残るけど…。

 紫堂恭子さんの作品では、『グランローヴァ物語』がダントツの出来で、『辺境警備』も非常に愛着のもてる魅力的なお話だった。掲載誌の意向で未完に終わった『エンジェリック・ゲーム』は、武器商人の父親から少女がどうやって自立するかというお話だったし、『ブルー・インフェリア』は文明を壊滅させた感染症を巡るスケール観のあるSFだった。これら初期の作品群と比べると、その後は、一定のクオリティの「良い作品」を書いてくれているにも関わらず、筆が達者になりすぎて、良くも悪くも「安心して読めてしまう」(私は嫌いだけど上手いとは思うCLAMPっぽい筆の達者さになってしまったような…それが角川クオリティ?)。いつもちゃんと中身のあるテーマを扱ってるし、エンターテイメントとしても楽しませてくれるが、入れ込むほどの魅力は感じられなくなっていた。(多分、量産しやすいようキャラの作り出し方が変わってしまったのだろうと思う)
 『不死鳥のタマゴ』も、初期作品のような無茶苦茶なパワーや魅力はない。掲載誌がプチフラワーあたりだったら、もう少しファンタジック・コメディの色を控えて、シリアスなテーマの方に力を注げたんじゃないだろうか。
 「内戦後の和解」を描くのに、ファンタジーという様式は、きっと本当に相応しいものであるはずだから、この食い足りなさが残念でならない。

   グラン・ローヴァ物語―決定版 (1)
   辺境警備―決定版 (1)
   ブルー・インフェリア―決定版 (1)
   エンジェリック・ゲーム VOLUME2 (2)

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