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January 20, 2007

『不都合な真実』 An Inconvenient Truth

 感想です。

 以前から話題になっていたので公開を楽しみにしていたんですが、お尻の重い我が家にしては珍しく、公開初日に見てきました@TOHOシネマズ二条。新しくて綺麗な映画館でした。
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 元アメリカ副大統領アル・ゴアが世界各地で行ってきた地球温暖化についての講演を巡るドキュメント映画です。国際機関が出す報告書とかもちょっとはフォローしてたんで、「衝撃の事実!!」みたいな期待は持っていなかったんですが……これがなかなか、改めて衝撃的。
 100年はもつと見られていた南極の棚氷が、たった35日間ですべて崩落してしまったメカニズムなんか知らなかった。溶け始めると一気に溶けていく危険があるってことを考えると、南極やグリーンランドの氷が溶けて海面上昇6メートル、水没地域の難民一億人という数字は、思っていたほど遠い未来のことではなさそうです。
 北極の氷は海面上昇には関係ないけど(浮いてるから)、氷なら太陽熱の90%を反射するのに対し、海面は90%を吸収してしまう。極地で海水が冷えないと海流が止まって、気候に大きな変動が起こる…

 様々な「不都合な真実」が語られているんですけども、まぁ、その見せ方、プレゼンテーションの見事さと言ったら、さすが本場アメリカです。
 グラフ一つ見せるにしても、白地に細い線の無愛想なグラフではなく、黒地に赤い太い線。
 南極の氷で調べた過去何万年だかの、大気中の二酸化炭素濃度のグラフなんか、とても大きな画面なんだけど、最初はわざと近年の急上昇部分を見せていない。何度かの氷河期を含む平均気温との関連が見て取れるグラフを見せておいて、「周期的な変動がありますねー、二酸化炭素が300ppmに届いたことはありませんねー」などと話し、それからおもむろに、グラフ右端に用意されたクレーン装置に乗る。「さっき使い方を習ったんだ」と笑わせながら、現在のCO2量の400ppm近くまで上昇して見せ、更に、このままアクションを起こさないと45年後には600ppmまで……と、天井近くまで昇ってみせる。実に深刻な事実を、実にユーモラスに見せていく。
 途中に何度かアニメーションが挟まれるんだけど、微笑ましかったのが一つ。カエルが熱湯に飛び込めばすぐに飛び出すけど、ぬるま湯に入ってゆっくり温度が上がっていくとカエルは動かない……というアニメで、「温度がどんどん上がっていき、ついに…」というところで、「ついに、カエルは助け出されました」と人間の手が伸びてきてカエルが助け出される。カエルの生命は大切に、というオチも、環境派ならこうでなくては、って感じ。

 つくづくアル・ゴアって不思議な人だと思う。アメリカの副大統領までやった政治家が、建前でなく本気で、環境問題を大事に思い続けてきたなんて、奇跡だ。彼が現職だった頃、先住民チーフ・シアトルの手紙を紹介した時も、びっくりした。政治家という人種の口からあの手紙のことを聞こうとは思っていなかった。
 しかも、彼は今でも民主主義のプロセスを強く信じていて、「政治的な意志こそ、再生可能な資源だ」と語る。政治の中枢で裏の裏まで見てきて、それでもこういうことを言えるって、タフだなぁ。

 映画の公開に合わせてアル・ゴアも来日したみたいで、ニュース番組でも取り上げられてた。でも、講演を聴いたり映画を見た人たちの感想として放送されるのは、見事なまでに、ことごとく、一人一人主義の言説のみ。家庭での省エネに励もうと思いますーという類の言説だけ。まぁ、省エネを意識せずに生活してる人がそれだけ多いってことなのかも知れないけど。唯一、ニュースゼロのメインキャスターの人が、持続可能な自然エネルギーへのシフトを進める必要が…ということを口にしていて、好感度急上昇。
 アメリカで作られた映画のメッセージが、「私に出来ることはお家での省エネ」であるはずがないと思っていた我が家では、頭の中が???状態だった。
 実際映画を見てみると、エンディングロールとともに浮かび上がるメッセージには、たくさんの社会的次元の提案が含まれていた。

 「電力会社に電話して、グリーン電力について問い合わせてみましょう。もし扱っていないなら、理由を聞きましょう」
 「気候問題に熱心に取り組む議員に投票しましょう。もし誰もいないなら、自分で立候補しましょう」
 「この問題について地域で声を上げましょう」
 「新聞やラジオに投書しましょう」
 「温暖化問題への国際的な取り組みに参加しましょう」
 「外国の石油への依存を減らしましょう」
などなど……家庭での省エネ以外の、社会的次元でのアクションへのとっかかりがたくさんあった。
 あと、「祈りを信じる人は、人々が変われる強さを見つけられるよう祈りましょう」というのも、日本以外では重要なメッセージだろう。

 そんな話しをさんざんしながら帰ってきて、映画の公式サイトを見たら……日本語版サイト本家英語版サイトの違いに、またまたびっくり!
 どちらのサイトにも「行動しよう(TAKE ACTION)」のページがあるんだけど、日本語版は「家庭で出来ること」と「外出時に出来ること」の2種類のみで、そもそも「自宅で取り組む排出削減」というタイトルになっちゃってる。
 本家サイトででは、「地域で、国で、また国際的に、変化を起こそう」(Help bring about change LOCALLY, NATIONALLY AND INTERNATIONALLY)という項目がある。
 本家サイトは、それぞれのメッセージにリンクが張られていて、情報として非常に充実している。「リサイクルしましょう」というメッセージなら、自分の地域でのリサイクルセンターが検索できるサイト、「省エネ家電や省電力電灯に交換しましょう」なら、それを見つけて購入できるサイトがリンクされている。
 日本での公開には博報堂が入っているから、サイトをまじめに役立つものにしようという意志がないのは仕方ないかも知れない。リンクがあれば、もっといろいろなことに興味を持って、アクションに結びつけることだって出来るのに。まぁ、日本だと「元赤軍」とのつながりがあるよううな名前が検索で一コも引っかからないNGOを選ばなきゃならなかったり、独特の事情があって難しいのかな。でも、そういうブサヨとは無関係な新しい世代の活動だってたくさんあると思うんだけど。

 ……さらには、TAKE ACTIONのページそのもののタイトルバナーに、本家版では"Political will is a renewable resource.(政治的な意志こそが、再生可能な資源だ)"というメッセージが書いてあるのだが、日本語版ではこれが消されている。検閲入ったみたいに、綺麗にない。
 映画パンフレットの最後にも書かれている「私に出来る10のこと」すら、日本語版本家サイトでは違う。
 本家版ではそのアクションによって削減できる二酸化炭素量が何ポンド、何%と明記されているが、日本語版にはこれが書かれていない。
 項目も、8個は同じだけど、一コは肝心な一言が抜けていて、最後の一コは全く別物に入れ替えられている。
 日本語パンフで「こまめに蛇口をしめましょう Use less water」とされているのは、本来は、"Use less hot water"だ。「お湯の使用量を減らしましょう」であって、単なる節水のことを言っているのではない。
 別物に入れ替えられているのは、
 日本語パンフ  「映画『不都合な真実』を見て地球の危機について知り、友に勧めましょう」
 だが、本家サイトでは、
 「電気製品のスイッチを切りましょう。使っていない時にテレビ、DVD、ステレオやコンピューターの電源を単に切るだけで、年間数千ポンドの二酸化炭素を削減できます」
 どちらも博報堂の上客からNGが出そうだもんね。

 同じ映画でも、日本に入ってくると様々なバイアスがかけられるんだなぁと思ってしまう。英語を読むか読まないかですら、スポイル具合が違ってくるんだなぁ。これでスペイン語が読めたら、もっと違うかも。

 映画見る気も書籍版を買って読む気も自分で調べる気もない人のために言っておくと、二酸化炭素の排出量は、6種類の適切な政策をとれば、全世界の4分の1の二酸化炭素を排出してるアメリカでさえ、既存の技術で無理なく、2050年までに1970年代の量以下に減らすことが出来る。ほとんど半減させられると言うことだ。
つまり、この映画の最初のモノローグからエンドロールまで含めてちゃんと見ればわかる通り、「あとは私たちの政治的な決断にかかっている」、というのが、この映画の本当に大事なメッセージ。
 この同じ映画を見て、まるで正反対の感想を抱く人もきっといるんだと思う(それがどんな風に正反対なのかも想像できないんだけど、温暖化対策はしない方がいいとか「実際には」出来るわけないとか意味ないとか)。是非そういう人の感想を読みたいな。

 ダンナも感想 『「不都合な真実」と「不自然な省略」?』をもっとちゃんと書いてますので、そちらも読んでやって下さい。

 私の書いた「だいじな約束」というエコだけど毒のあるショートストーリーも、よろしかったらどうぞ。

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