戦災復興マンガ『パンプキン・シザーズ』 その1
るろ剣、トライガン以来、久々に入れ込み甲斐のあるマンガに出会いました。
一部地域で深夜アニメ放映中の「パンプキン・シザーズ」の原作。今回は非暴力プロパーのマンガではないのですが、戦災復興部隊のお話です。
『Pumpkin Scissors』1~6巻 岩永亮太郎 講談社コミックス 月刊少年マガジン連載中
舞台は架空のヨーロッパ、架空の二十世紀初頭というところでしょうか。戦車が無敵の陸戦兵器として花形であり、小銃は未だボルトアクション、民間では先ごめ式ピストルも使われていて、電信網は試験的な整備途上のため、軍隊では伝令犬が活躍中、軌道列車も自動車もあるけど、馬車もまだまだ現役、という感じの舞台設定です。
フロスト共和国との長きにわたる戦争が、ようやく停戦を迎えて3年。アリス少尉率いる帝国陸軍情報部第3課、通称パンプキン・シザーズ小隊の任務は、「戦災復興」です。
とある村で、野盗化した戦車隊と対決する第3課。たまたまその村にいた巨漢の復員兵オーランド伍長とともに戦車隊を撃退するところから物語が始まります。
以下、例によってネタバレありです。
野盗化した戦車隊は、実は戦時中、国際条約違反の化学兵器を使っていた903CTT(化学戦術部隊)「死灰を撒く病兵(クランクハイト・イェーガー)」を母体としていて、帝国軍部は彼らを存在しなかったものとして隠蔽しています。「不可視の9番(インヴィジブル・ナイン)」と呼ばれる、帝国が犯した禁じ手である900番台の非公式部隊の一つです。それ故、情報部は援軍を出すことを拒み、陸情3課は独力で奴らから村人を救わねばなりません。揮発性戦術毒キルヒ3号によって汚染された村を救うため、アリス少尉は野盗化兵が持っている抗体の確保をめざします。
最強の陸戦兵器である戦車を持つ野盗に対し、わずか3人の部隊で立ち向かおうとするアリス少尉を、オーランド伍長は「無茶だ、それじゃ無駄死にだ」と止めようとしますが、少尉は逆に、「苦しむ民を見て、むさぼる悪を見て、貴様は何も感じていないのか?」と問い返します。「伍長(オマエ)こそ、本当の気持ちを無駄死にさせようとしているのではないか?」と。
この言葉こそが、伍長の人生を完全に方向転換させるきっかけでした。ワケありげな伍長は、901ATTと刻印されたランタンを腰に下げ、「戦車は俺が何とかします」と作戦への協力を申し出、ほぼ単独で戦車を排除。その後アリス少尉によって、陸情3課に迎え入れられます。
○ランデル・オーランド伍長
2メートルを軽く超える巨漢で、全身傷だらけ。戦時中には「不可視の9番」の一つ、「901ATT」すなわち「対戦車猟兵部隊」に所属した「命を無視された兵隊(ゲシュペンスト・イェーガー)」の生き残り。
腰に下げたブルースチールのランタンを点けると、恐怖も痛みも感じなくなって、どんな怪我を負おうとも戦車に向かって歩き続け、大口径の対戦車拳銃「ドア・ノッカー」でゼロ距離射撃を敢行、戦車を撃破する。帝立科学研究所、通称カウプラン機関によって何らかの人体改造を施されている(涙)。
ランタンのスイッチを入れると頭の中に「殺セ!!」コールが鳴り響き戦闘モードに入る伍長ですが、その間も本人の意識はあるらしく、戦闘終了を待たずに自らランタンを消すことも、いつの間にか出来るようになってます(これって本人的には大進歩だったのでは…?)。ただし、「殺セ」コールの強迫観念との葛藤は、なかなか辛い様子。
ランタンonモードでも、別に素早く動けるとか筋力アップするとかじゃないので、強くなるわけじゃないんですよね……もしかして少年マンガの主人公離れした弱さではないでしょうか。どんな怪我をしても怯まないってだけなので、結果、伍長はいつも怪我まみれ。初回、2回目くらいまでは、対戦車のバトルシーンもちょっと格好良く描かれてたりするんですが、回が進むと痛々しさが増していくばかり。今のところ戦車は一度に一台しか出てきてませんが、多数の戦車を相手にランタンonなんてことにならないよう祈るばかりです。誰か伍長に、まずキャタピラを狙って動きを止めるとか、砲塔の接合部を狙って砲撃を無力化するとか、合理的な戦術を入れ知恵してあげて下さいヨ。
普段の伍長はというと、その巨体に反して、単発銃を向けられただけで震え上がるほど臆病で、気が弱くおとなしくて、蚤の心臓というかガラスの心臓というか、本当は虫も殺せないくらい優しい奴です。ただし、摘んで捨てたくなるようなウジウジキャラとは違い、伍長はおとなしいけど言葉足らずではなく、言うべきことはちゃんと相手に伝えられるコミュニケーション能力も持っています。
ちなみにアスパラサラダやポテトサラダばかり注文するベジタリアン系(町の定食屋じゃ、サラダにもベーコンが入ってるかも知れないし、ポテトだってチキンスープで煮てあるかも知れませんが、ともかく肉は食えない)。3課に配属後も(何故か)橋の下で野良猫たちと暮らしています。冬の寒さが心配です。
気が弱く臆病な伍長ですが、ちゃんと一かけらの勇気を持っている人でもあります。野盗化兵たちが戦車を持っていると知れば、それは自分の仕事だ、と、ほとんど反射的に引き受けてしまう。根が利他的な人間に、本物の臆病者はいません。
「ランタン付けてりゃ殺しまくりで、ランタンなしじゃ、何も出来ない…」というのが伍長の自己認識だったのですが、アリス少尉との出会いから、殺す以外にも出来ることがあるんじゃないかと模索中。
「世界から見ればほんの一部ではあるけれど、伍長(オマエ)がなしえた“戦災復興”だ!!」という少尉の言葉に、体ふるわせて感動する伍長(かわいすぎ)。この言葉が、停戦後の時代を生きるよすがとなったようです。
橋の下で猫まみれになりながら、夜ごと戦場の悪夢や、殺した人たちに泥沼に引きずり込まれる悪夢にうなされているのですが、最近は悪夢の最後に少尉が出てきて、「何をしている、伍長? 戦災復興だ!!」と笑顔で引っ張り上げてくれるようになったりもしました。伍長の中でアリス少尉の偶像化が進むのも無理はありません。(脱・偶像のエピソードもちゃんとあります!)
傷まみれはともかく、美形でもない巨漢なんて完全にストライクゾーンの外だったはずなんですが……伍長は私の大好きな「時代に翻弄され」キャラ。
900番台の非公式部隊出身である彼は、腰と脳に「鏡写しの冬虫夏草」を植え付けられていて、どうやらそれがランタンとともに彼の異常な戦闘能力の秘密らしい。冬虫夏草が成長しちゃうとどうなるのか、そうじゃなくても無茶な戦い方ばかりして先があるのか、心配はつきません。
そんな伍長の必殺技は「ドア・ノッカー(大口径銃)」よりも、むしろ「ごめんなさい…」ではないかと。他にも、オロオロする、困る、しゅんとなる、「あう、あう」と狼狽える、ジャガイモを眺めるなどの、視覚性戦術萌えを多数装備、キュン死者多数。ファンの間ではすっかり“ヒロイン認定”されて総受け状態(←専門用語)です。
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