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June 2005

June 26, 2005

Musical Baton

Musical Batonなるものが回ってきました。

Q:Total volume of music files on my computer
  (コンピュータに入ってる音楽ファイルの容量)

A:PCでは聞かない。

Q:Song playing right now
  (今聞いている曲)

A:威張るほどのことじゃないが、今聞いてない。

Q:The last CD I bought
  (最後に買ったCD)

A:David Bowie REALITY

Q:Five songs(tunes) I listen to a lot, or that mean a lot to me
  (よく聞く、または特別な思い入れのある5曲)
 
A:
1 "Five Years" David Bowie
 小学生の頃、NHKで来日公演を放映してるのを見て、一発で落とされてしまいました。人生踏み誤ったきっかけかもしれない。

2 「時の過ぎゆくままに」 沢田研二
 堕ちていくのも、幸せ……なのさ。

3 「終わらない歌」 The Blue Hearts
 洋楽より邦楽が面白くなってきた頃だった。

4 "Rape Me" NIRVANA
 世代的にちょっとズレてるから過剰な思い入れはないんだけど。「助けて助けて」って言ってる歌なのに、出てくる言葉がRape me、Hate me、Waste meだなんて、救いが無さすぎて……そういう救いのなさってわりと好き。

5 "EPITAPH"  KING CRIMSON
 多分そんなことはないと思うのだが、この辺のプログレが子守歌だったような気がする。

Q:Five people to whom I'm passing the baton
  (バトンを渡す5人)

A: チェーンメールみたいにトラフィック増やすわけじゃないから考えすぎなくても構わないんだろうけど、友達少ないから5人も無理。
 このブログをある程度の頻度でチェックしてるブロガーが誰なのか分からないし、気が小さいからバトンを受け取ってもらえなかったらと思うと心配で夜も眠れなくて昼寝しそう。
 なので「次は……ア・ナ・タ・よ」と逃げておく。

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June 18, 2005

七人の妃 2

その1よりつづく)

 そこまで語ると、王は深く息を吐き、眼を閉じた。落ちくぼんだ瞼には病と疲労とが影を落としていた。再び目を開けた時、王は力なく呟いた。
「余は、余が為し遂げた偉業を誇りに思う。だがそれらは余を傷つけてもきた。一つ為し遂げた後にはいつも、さらに偉大なことを為さねばと、余は常に自らを追い立ててきたように思う」
 老婆は打ち解けた声音のまま、ひっそりと問いかけた。
「何に追い立てられたというのでしょう? 陛下の偉業は、七つの内のただ一つでさえ、一人の王が生涯かけて為し遂げるほどの偉大さですのに」
 王は陰鬱に応える。
「半年で蛮族を追い払った時、余はすぐにはそのことを信じられなかった。望んでいた以上の結果だったのだ。南海の航路の時も、その後も、どれもがそうだった。その時は必死になり、全精力を傾けて事に当たり、余は無我夢中だった。だが、いざ目的を達成してみると、そのあまりの偉大さの前では、それが本当に余の力によって為し遂げられたのか、分からなくなるのだ。余は、余自身の偉業に打ちのめされ、更なる偉業を為すことで過去の偉業に打ち勝たねばならないと感じていたのだ」
「陛下の偉業は、謂わば陛下が生み出した子供のようなもの。陛下は御自分の子供と競い合わねばならなかったと、そう仰るのですか?」
 王はひどく苦しげな表情で、目を伏せた。
「この広大な帝国の主であると自負してきたことさえ、余を傷つける。誰もが帝国を頌え、余を称える。だがそれは、帝国が偉大であるが故に余も偉大だと思われているに過ぎない。ならば……余は本当に帝国の主人だと言えるのか? その僕ではなかったか? 他人の僕ならまだしも、余自身が生んだ子供の僕になるなど、余には堪えられぬ」
 王は必死に屈辱に耐えながら、言葉を継いだ。
「余は七人の妃達に愛され崇拝されることで、余の誇りを確かめてきた。あの者らは余を愛し敬う。だがそれも、七つの偉業のゆえだ。七つの偉業に七人の王妃だ。それを合わせれば、余という一人の人間が汲み尽くせるというのか?」
 微かに震える王の頬に、枯れ枝のような老婆の手が伸びて、そっと触れた。
「陛下御自身の偉大さは、陛下の七つの偉業に遙かに勝るもの。陛下が何を為したかではなく、陛下が陛下御自身であられることそのものが、遙かに偉大なのです」
「ではなぜ余は、まさに余自身は、それを心から信じることが出来ないのだ?」
 少しの静寂があり、老婆は掠れる声で囁いた。
「陛下は幾多の偉業をお生みになった。この帝国も。けれど陛下は、陛下御自身を生むことは御出来にならない。御自身の偉大さを信じたいと仰るが、まさにその陛下御自身というのは、陛下の意志や、能力や、あらゆる偉大さよりも先に、常に、既に、この世界に投げ込まれているのです。これ程に偉大な陛下にして尚、御自身の創造者とはなり得ず、それ故、御自身の偉大さの凡てを識ることは出来ないのです」
 沈黙が長引くにつれ、枕元の明かりが大きく揺らいだ。やがて王は、重たげに唇を開いた。
「余が何を為したかよりも、さらに偉大であるはずの余自身を、余は、知り尽くすことが出来ない……それならば、余は、我が子の奴隷であることの屈辱を、堪え忍ばねばならないのか」王は激しい瞳で老婆を見つめた。「七つの偉業を称えられ、七人の王妃を道連れにして……それだけが私の凡てではないと傷付けられ、屈辱を感じさせられねばならないのか!」
 老婆の顔の皺が、微かに蠢いた。それが微笑みであると判るのは、王だけだった。王はじっとその笑みを見つめ、囁くように問いかけた。
「……なぜ笑っている? 私が滑稽か?」
 老婆は寛いだ声で応えた。
「思い出していたのですよ。遠い昔のことを。貴方の求愛を退けた、ただ一人の女だった私の、あの遠い日のことを」
「そう……貴女は私を拒んだただ一人の女だ。あれほどの屈辱はなかった。だが……それでも許されるほどに貴女は美しかった。この世の燦めきを一身に集めたように、若く、美しかった」
「陛下よりは随分年上でしたけれど……昔も、今も」
 二人の間に不思議に暖かな親密さが通った。老婆は言葉を継いだ。
「あの頃の私には若さも美しさもありましたが、その二つとも、じきに失うことくらいは知っていました。私にだって祖母もいれば、祖先の女達の物語だって伝わっておりましたので。私は自分の若さと美しさを存分に楽しみましたが、美しさの勲章として王を夫に持つことは、やめておこうと思いました。いつか美しさを失った時、勲章だけが残るのは惨めではないかと思ったのです」
 王はやや憤慨して口を挟んだ。
「貴女の美しさだけを、私が愛したと思っていたのか?」
「そうではありません。でも、美しさは確かにあの頃の私の、大きな一部でしたから。本当に、あの頃……私は貴方の偉大さに激しく心を揺さぶられていました。貴方が王でさえなければ、私も拒まなかったかもしれません。でも偉大な王であることは、やはり貴方の大きな一部でした。それ抜きでは貴方ではない。私は偉大なる王を夫に持つことより、偉大なる王の求愛を退けた女であることを選びました。それはずっと、私の誇りであり続けました」
「だから、逃げたのか……?」
「ええ。貴方の求愛を逃れ、いろいろな町や村を転々としました。陛下の統べる帝国の、東の果てにも行ってみました。もちろん南海航路を旅して、南の大地へも。大河の堤防も見ました。美しく生まれ変わった都にも戻ったことがあります。再生した若い森も歩きました。神々の山脈を望む、古い山村にも行きました。多くの人と出会い、多くのことを見、また聞きました。でも……」
 老婆はそこで微かに言い淀み、しかしすぐに、心を決めたようにきっぱりとした口調で、言葉を続けた。
「でも、貴方の偉大さに比べれば、何もかもが色あせて見えました。世界は色彩を失い、葡萄酒は香りを失くしました。誰一人、貴方のような人などいない。貴方を拒んだことの報いを、私は一生支払い続けねばならなかったのです」
 王の眼差しの中で、老婆は静かに顔を上げた。二人は真っすぐに見つめ合い、身動ぎもしなかった。
 王が口を開いた。
「一つだけ聞かせてくれ……貴女は、私を愛していたのだろうか?」
 老婆はひっそりと微笑んだ。王を拒んだ者としての誇りを守るために、彼女は彼女の愛を口にすることは出来ず、代わりにこう言った。
「例えば、もしも……私が貴方を愛し続けてきたとしても、それはさほど重要なことではないのだろうと思います。それが『私の愛』である限り、それは私自身ではない。貴方の偉業が、貴方自身ではないように。『私の愛』は私自身ではないし、愛そのものでもないのです。実際には、人が人を愛しているだけなのですし……そして本当の本当は、そこに愛があるだけ。ただそれだけ」
 女たちに愛されることで自らの誇りを確かめてきた王は、か細い声で老婆に問い掛けた。
「ここに、愛はあるのだろうか……?」
 王が求めたのは彼自身への愛だった。偉業の故でもなく、帝国の偉大さの故でもない、彼自身への愛を求めていた。王は彼女の愛を信じたがっていたが、老婆は、王が愛そのものを信じることを願った。偉大な王に相応しいのは一人の女の愛などではなく、愛そのものでしかないと知っていたからだ。しかし人の言葉は、誰かから誰かへと、愛そのものを告げるようには出来ていない。
 老婆は静かに王を見詰め返した。
「……貴方にお話ししておくことが、もう一つだけあります」
「聞かせてくれ」
 王の声は力なく掠れた。老婆はそっと瞼を閉じ、幾分苦しげに眉を寄せ、それから吐き出すようにこう言った。
「貴方から逃れた私にとって……貴方のあとには、誰一人いなかった。誰一人、私の心を本当に動かす人など現れなかった。貴方の後にいたのは……神だけでした。ただ神がいただけ」
 枕元の灯りが揺れ、沈黙が降りた。
 老婆はゆっくりと立ち上がり、歩き出した。その後ろ姿がしだいに滲んで、扉の軋む音が響いて消えた。
 王の口許には安らぎか諦め、或いはそのどちらにも似た何かが浮かんでいた。そして王の心には、いつまでも老婆の最後の言葉が残った。
 神だけだった――――神だけがいた。  (了)

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七人の妃 1

 薄墨の衣を纏い、足を引き摺るように、一人の老婆が王宮の階段を上っていく。ゆっくりとした足取りは、夜そのものが裳裾を曳くかのように、一つの意志と目的によって倦むことなく運ばれていく。天球の高みには欠けた月が掛かり、蒼く翳る尾を引いていた。
 柱廊に立つ夜警の兵士が物音に気付き、階段を覗き込むと、小暗い影が蠢いているのが見えた。夜警は影の本体を見極めようと目を凝らしたが、影自体が命を持って蠢いていることを知り、打ちのめされた。
「誰だっ」
 かすかな恐怖に駆られ、夜警は声を上げた。老婆は答えない。
「止まれ」
 影はゆらりと揺れて形を変え、襤褸布の隙間から顔のようなものが覗いた。
「誰だ」
 影はまた形を変え、一通の手紙を挟んだ奇妙な杖を突き出したかに見えたが、それは老婆の腕だった。老婆は再びゆっくりと階段を上ると、夜警の前で手紙をかざした。
 それは王からの招待状だった。いかなる時、いかなる場合でも、速やかにそして鄭重に、王の御前へと案内するようにと書かれていた。
 夜警の兵士は老婆を見つめ、威儀を正しながらもなお呟いた。
「あなたは、いったい……」
 顔を覆う皺の一つが割れ、枯れた囁きが吹き抜ける。
「……その問いは、御前自身に向けるがいいさ」
 それは異界の告げ言のようだった。兵士は前よりももっと打ちのめされ、頭を低く垂れて老婆に背を向けると、沈黙の重荷を負って王宮の奥へと老婆を導いた。
 賓客の来訪が告げられると、眠っていた王宮の奥へと慌ただしいざわめきが波のように伝わっていった。その辿り着く先には一枚の分厚い扉があり、老婆が前に立つと、扉は軋みを上げて開いた。
 豪奢な調度で飾られた偉大な王の寝室には、薬草の匂いが立ちこめていた。老婆は何も言わず、寝台の枕元に用意された席に腰を下ろした。王は片手を上げて、医師と従者と女官たちを下がらせた。
 部屋は王の偉大さにふさわしい広さだったが、王も、老婆も、霞む両の目でその涯てを見ることはもはや叶わなかった。王は耳を澄まし、人々の気配が去ったことを確かめると、静かに口を開いた。
「……余には七人の妃がいる」
 老婆は揺れるように頷いた。
「存じておりますとも」
「……だが、それだけだ。他に何もない。何もかも得たが、何一つ無い」
 老婆の唇から、かすかな笑いが漏れた。
「誰も信じますまい」
「それが問題なのだ。広大な領地を統べ、不可能と言われていた偉業を次々に為し遂げた偉大なる王が、余には何一つ無い、と言っても、信じる者はいない」
 王は苦しげに頭をもたげ、老婆を見上げた。
「……貴女は?」
 老婆は静かに応えた。
「私が信じても、陛下御自身が信じられずにいれば、同じこと」
 王の顔に畏れがよぎった。
「余に信じろと言うのか? この不安が単なる不安ではなく、余の真実だと?」
「陛下に強いることなど、この世の誰に出来ましょう? それよりも……陛下」
 老婆はそれまでとは違う、打ち解けた声音で言葉を継いだ。
「お妃方のことをお聞かせ下さい。陛下をもっともよく愛し、崇拝する方々のことを」
「あれらは全員、余が逝けば余に殉じると言っておる……本心からの言葉だろう」
 王は寝台に掛かる天蓋を見やり、長い沈黙に浸った。七人の妃を思うことは、王の人生、為し遂げた事どもを思い返すことだった。
 王は自分がまだ若く、そして世界がずっと広かった頃へと思いをやった。

 一人目の妃には貴女も会ったことがあろう。長年敵対していた隣国の姫だ。北方の蛮族に国を攻め滅ぼされ、肉親を殺された姫を、余はこの宮殿に招いてもてなした。だが長く敵対した国にあって、彼女の心が安らぐことはなかった。彼女のたった一つの望みは蛮族を追い払い、祖国を取り返すこと。今思えば、余は子供じみた自尊心だけを頼りに兵を率いて、誰もが無謀と呼んだその戦いに赴いたが、知力と、勇気と、強運とで、わずか半年で蛮族を追い払った。凱旋した余の前に姫は跪き、生涯を余に捧げると誓った。北方の蛮族の強さと恐ろしさを最もよく知る彼女は、それを追放した余の力を誰よりもよく理解し、余の偉大さの前に跪いたのだ。
 二人目は海の向こうから来た。余は余自身の若さに急き立てられるように、大海へと乗り出し、遙か南へ航路を開拓した。溢れるほど豊かな果物と香料、味わったことのないたくさんの作物に満ちた大地では、天鵞絨の肌をした女たちが余を歓待した。その中の一人を連れ帰ると、彼女は我が航海の困難を知り、南海の航路を征服した余の勇気と大胆さを心底から絶賛し、偉大な航海者である余を崇拝した。
 三人目は遙かな東方で恋に落ちた。歳と共に益々気力充実していった余は、十年に渡って戦いを求め馳せ巡った。言葉も、神の名も違う国々が、次々に余の支配に下った。髪や目や、肌の色も違う東方の国で、一番の美女と名高い踊子が余を出迎えた。彼女は、世界の涯てから遙々やって来た余を、彼らの奉ずる神々の一人とでも思ったらしい。どうか共に連れて行って欲しいと懇願され、余はその美しい女を戦利品の一つとしてこの国に連れ帰ることにした。一年をかけての帰国の旅路で、彼女は次々に現れる見たこともない風景、人々、歌と舞踊、あらゆる見知らぬ文化に触れて、余の版図の広大さを身をもって体験した。そうして彼女は、共に戦った故山の将軍たちを別にすれば、我が帝国の偉大さを最もよく知り、最も熱烈に賛美する者となった。余はその女を妃として娶った。
 輝くほどの若さは去っていったが、余の身中に漲る意志の力は衰えてはいなかった。余は都に腰を落ち着け、五年続けて荒れ狂う洪水で民を襲ったあの大河に新たな戦いを挑んだ。暴れ回る流れを変え、堤防を築き、大河をついに手懐けることが出来るとは、余の他には誰一人信じてはいなかった。だが余はそれを為し遂げた。堤防は持ちこたえ、河は溢れることがなかった。傲岸な河の神に捧げるべく最後の人身御供と定められていた娘を、余は解き放ってやった。それが四人目の妃となった。
 人生の半ばを過ぎ、余はこの都と宮殿の改修に着手した。都中の通りという通り、屋根という屋根は余の指揮のもと美しく敷き替えられ、葺き替えられ、宮殿は雪のごとき大理石で化粧直しされた。余は宮殿の柱像を、都でも最も古き血筋に連なる姫君の姿を写して建て直させた。姫君は美しく生まれ変わった都を巡り、宮殿を巡り、そして自らの姿を写した柱像を見上げ、余の足下に接吻した。この都が建設された、その始まりの時に居合わせた彼女の先祖にも劣らぬ名誉を授けられたことに感謝し、彼女は余に嫁いだ。長い時を経て残るのが何であるかを、最もよく知る一族の一人として、彼女は千年先までも響き続けるであろうこの都と宮殿の威光の、最善の理解者となった。
 しかし余はそこで立ち止まることは出来なかった。都の改修のために切り開かれた森が、広大な荒れ地になろうとしているのに気付いたからだ。余は木々を植えることを始めた。民が望む果実のなる木、精油や香料をもたらす樹々、そして焚き付けの枝を多くもたらす木々を植えた。昏き獣たちの森ではなく、豊かな実りの森を作るべく、余は手ずから木々を植え、育てた。やがて丈の低い樹々の間に明るい陽が差し込み、柔らかな靄の中に幾本もの光の帯が――妖精宮の柱のように――顕れるようになった。その隙間を子供らの笑い声が谺し、余は一人の娘に出会った。森を愛し、森を楽しみ尽くし、森の広がりと共に成長してきた猟師の娘だ。彼女は森の樹の一本一本と兄弟姉妹の関係を結んでおり、下生えの草々のあらゆる効能と利用法を知っていた。彼女はまさに、余が再生した森の守護者と呼ぶに相応しかった。娘は余の身分を知ると、初めはひどく畏れたが、やがて、この森への愛情を共に分け合うことが出来るのは、余と彼女、この世に二人しかいないと気付いた。
 歳月は余の上にも平等に降り積もり、余は残りの人生で為すべきことは何なのかと自らに問うた。余の心に浮かんだのは、伝説の歌だった。昏き森の彼方、岩なす谷を越え、世界の屋根を支えるというあの神々の山脈のどこかに眠る、遙かなるいにしえの王の伝説だ。人ならぬ者達と親交を結び、この世の秘密を余さず知っていたという、百の名の王――しかし死すべき人の子らには、百の名のうち九十九までしか明かされることがなかったという、あの王の伝説だ。王の百番目の名は、彼が知った世界の秘密そのものであるとも言い伝えられてきた。余は杖に縋り、輿に乗りさえして、神々の山脈、そのどこかに眠るという王の墓所を目指した。人を拒む空の高みへと登るにつれ、強健な供の若者らは次々に幻影に捕らえられ、倒れていった。余は一人、死の影に寄り添われながら幾日も彷徨った。そして辿り着いたのだ。信じようと信じまいと、そこには伝説の王の墓所があり、墓所を守る一族の村があった。一人の女が余を待っていた。女は余に水と粥を与え、温め、眠らせ、やがて余の身体が回復すると、王の墓所へと案内した。崩れかけた墓所には一枚の石版があり、歳月に摩耗してほとんど薄れてしまったとはいえ、そこには確かに、百の名の王の百番目の名が書かれていた。それは見知らぬ文字、とうの昔に滅び去った言葉で書かれていた。余は女に、それが読めるのか、意味を知っているかと問うた。女はただ微笑むだけだった。彼女は耳が聞こえず、口がきけなかったのだ。しかも彼女は、千年の長きにわたり墓所を守ってきた一族の、最後の一人だった。そうして世界の秘密は慈悲深く守られ、王の百番目の名は永遠に失われた。余は古びた石版と、墓守の女を連れて山を下りた。……(その2へつづく

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June 07, 2005

キハチ 梅田店

 神戸のAちゃんと月例ランチの日。
 まずはハービスPLAZA ENTでぶらぶらとお店を見て回り、SLOW-FLOWというヨガグッズ屋さんでヨガウェアを買ってみた。動きやすくて涼しくて可愛くて、部屋着にもよさそう。
 ランチはキハチにて。店内は広々していてシック。まだ新しいから、この辺のお店はどこもきれい。無国籍料理と銘打っているけれど、基本はイタリアン+フレンチ?
 席に着くとまず飲み物のメニューだけ渡された。食前酒を頼むならそれも良いんだけど、昼から食前酒+ワインという人は少ないのでは。お料理を決めてから飲み物も選びたいところ。
 ランチのコースから、スモークサーモンの入ったヴィシソワーズと、子羊と地鶏のグリエをオーダー。どちらもポーションがたっぷりめなので繊細な感じはしないけど、お味は良く、野菜も多め。パンとデザートとお茶が付いて、一番軽いコースだったけど、お腹一杯。コーヒー紅茶の他に中国茶を何種類も用意しているところが無国籍風の所以らしい。テーブルの近くで煎れてくれる中国茶は、香りが良くて雰囲気がある。
 ランチのあとはヒルトンプラザでお店を覗いてから、本日は解散。女の子と一緒のショッピングは、やっぱり楽しいなぁ~。

 京都駅で伊勢丹をちょっと覗いてから帰宅。ハンナはドッグカフェに行っていて留守。
 早速ヨガウェアに着替えるも、疲れちゃってヨガは出来ず。お米をといでタイマーをかけ、一休み。
 夜になってもお腹が空かず、取りあえずちょっとヨガをやってから、軽く晩ご飯を済ませる。小松菜のマスタード和えと、カブの葉と高野豆腐の梅干し蒸し煮。今日は暑かったから、さっぱり目の味付けで。

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June 02, 2005

『量の支配と時代の兆候』

 ルネ・ゲノンThe Reign of Quantitiy & the Signs of the Timesを、半月以上かけてやっと読み終わりました。英語の本を読むのは久しぶりで、しかもいきなり形而上学の本だったもんで、すーんごい苦労したんだけど、その詳細はあまりに情けないので割愛。同じ単語を何度電子辞書で引いたことだろうか…その結果ほんの幾つかだけを覚えたけど。
 前半は近代批判ということで覚悟の上で読み始めたので、言葉の壁が厚かった以外は、フムフムと読み進む。球から立方体へのシンボリカルな時代の低落。原初の楽園である庭園から、終末に顕れる天のイェルサレムたる都市への、固定化、物質化の過程。純粋な質はあり得るが純粋な量は顕現以下であって存在し得ない、とか、形而上学的な話は現代人にはほぼ意味不明と思われ。
 更に後半、量の支配、すなわち固定化の過程が極まったあとに時代が全面的溶解に向かう下りにさしかかると、更に話はオカルティックな色彩を帯びて、これ、理解できる人って何人いるの?みたいな。
 簡単に紹介しても理解されないだろうし、そもそもどこから紹介を始めればいいのかも私には不明。でも、もの凄~く面白かったし、たくさんの秘密を明かしてもらった気分。終盤はアンチキリストの話で、かなり怖かったですけど。
 結局、お前はどう生きるの?と問い返されていることに変わりはなく。
 それが分かりゃあ、こんなとこでグズグズしてないわけで。

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