« びすとろ希味 | Main | Flower Fairies »

March 23, 2005

『世界の終末』

 引き続きルネ・ゲノン再読で『世界の終末 ―現代世界の危機―』。原著は1927年。

 「進歩」――まったく物質的な進歩を指していることを明記しておかねばならないが――と呼ばれるものの「恩恵」、あれほど賞賛されている「恩恵」の大半は錯覚ではあるまいか。 p.151
 人々はこの平等という妄想の名の下に、いたるところで画一性を押しつけようとするのである。 p.118
  「平等」や「進歩」の思想などほとんどの現代人が盲目的に受け入れ、その大半が明らかに十八世紀に形成されはじめた「俗人のドグマ」を相手にするとき、当然のことながら、これらの思想が自然発生的に誕生したと考えることは不可能である。これらは、もっとも厳密な意味で真の「暗示」によって生じたのである。……略……無秩序をこのまま保つことに何らかの利益を見出す者たちによって、これらの暗示はきわめて注意深くはぐくまれているのであり、また、すべてが議論の的になるはずのこの時代において、これらの暗示だけが決して俎上に載ることがないのだ。pp.118-119

 政治家の経歴が問題になる場合、……略……、完全な無能が障害となることは稀である。p.121
 無能という条件の下においてのみ、件の政治家たちは大衆の代表者、つまり多数者の似姿として登場することができるのである。……略……問題について事情に精通し、立派に発言できる者の数より、それについては無能力な者の数の方が比較にならぬほど多い。p.125
 「民主主義」は、純粋な知性がもはや存在しないところにのみ創設されるのであり、現代世界の場合がまさにその例である。ただし、平等は事実上不可能であり、いかなる平均化の努力にもかかわらず、人間間の差異を消滅させることは実際上できないので、人々は奇妙な非論理的過程を経て、偽のエリートをでっち上げるに至るのである。……略……これらの偽のエリートは、なんらかの形での優越性、きわめて相対的にして偶然的、かつつねに純物質的次元の優越性に基づいている。現状においてもっとも重視される社会的区別が財産に基づく区別、すなわちまったく外的で、もっぱら量の次元に属する優越性に基づく区別である……略……。結局のところ、このような優越性だけが、「民主主義」と同じ観点から由来しているがゆえに、「民主主義」と両立できる唯一の優越性なのである。 p.131
 多数者の目には、少数者が存在すること自体許しがたいのだ。なぜなら、少数者の存在は画一性と「平等主義」の偏執的欲求に反するからである。 p.151

 彼ら(現代の西洋人)には量だけが重要であり、感覚でとらえられないものは存在しないとみなしているので、行動しない者、物質的に生産しない者は、「怠け者」以外の何ものでもないと映るのだ。この点に関しては、通常東洋の民族に与えられている評価に言及するまでもなく、観想的次元がどう判断されているかを見れば十分わかるであろう。pp.152-153
 現代文明は人為的な欲望を増大させることをめざしており、すでに述べたように、それが満たすことのできる欲望以上の欲望をつねに創り出していくだろう。ひとたびこの道に踏み込んでしまえば、途中で止まることは非常に困難であり、またある一定の地点で停止するいかなる理由もないのだ。存在しないもの、その存在を夢想だにしなかったものが欠如しているからといって、人間が苦しむことはありえなかった。ところが今日では反対に、人間はそのようなものが欠けていれば、いやおうなく苦しむのである。なぜなら彼らはそれらが必要であるとみなすことに慣らされており、そのためそれらは実際に必要になってしまったからだ。p.154

 西洋人は、ある程度までその反伝統的、物質主義的精神を他の民族に浸透させるのについに成功したのだ。最初の侵略形態は肉体にしか及ばなかったのだが、今度の侵略は知性を害し、精神性を抹殺してしまう。ただし、後者を準備し、可能にしたのは前者であるから、結局のところ、西洋がいたるところで自らを押しつけるのに成功したのは、ひとえに暴力の力によることになる。…略…他の点ではひどく劣っている西洋文明が実際に優位を保っているのは、暴力の点だけであるからだ。 p.165

 無限の進歩や進歩への過度の期待を否定できる人でも、進歩そのものが実は認識の低落に導かれた迷妄にすぎないとまで言われると、びっくりするかもしれない。まして、平等や民主主義を正面切って否定された経験なんて、ほとんどないんじゃないかな。だからほとんどの人は感情的に拒否反応を示すのでは。私はどうやって近付いたんだったかなぁ……ガンジーやキングを入り口にしたから、軽率に拒否反応を起こさずに済んだのかな。でも、伝統的思想からちょっと離れていると、すぐに現代文明に呑まれてしまいますね。今回再読してみて、忘れてたことがたくさん書いてありました。

 解説の冒頭には、次のようなアンドレ・ジッドの言葉が引かれている。

――もしゲノンが正しければ、私の全作品は崩壊する。……そしてゲノンの書いたことに反対するいかなる理由も見出せないのだ。……しかしすでに賭けはなされた。私は年をとりすぎている。
 

|

« びすとろ希味 | Main | Flower Fairies »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/32134/3408628

Listed below are links to weblogs that reference 『世界の終末』:

« びすとろ希味 | Main | Flower Fairies »