明るい非暴力マニュアル
ピースウォークで逮捕者というご時世になったことですし、明るくオープンな市民活動のために、ちょっと非暴力的対応をまとめてみよう。
まずはピースウォークの場合を考えてみます。
【心構え】
お巡りさんに最初から敵意を持つ必要はありません。
「今日は見せしめに何人かしょっぴいてやるぞ」という上の方針があっても、一人一人のお巡りさんは個性のある人間です。そりゃ、中には「反戦運動なんかやるのは人間のクズ。誰のおかげでのうのうと暮らせてると思ってんだ、いい気になりやがって」と思ってる人もいるかも知れませんが、全員がそうとは限りません。職務に忠実な人も多いでしょうし、何より、警官を志した動機が「人の役に立ちたい、市民の安全を守りたい」という思いだった人も多いと……信じたいじゃありませんか。平和な未来を信じたいと思ってる私たちなんですから。
もし参加者がお巡りさんに敵意を向けたら、アチラとしては好都合です。「反政府の不満分子め、反権力のバカどもめ」を“排除”して一般市民の安全を守るのが、彼らの仕事なのですから。もう脳内では「テロリスト予備軍」に変換しちゃって、心おきなくタコ殴りに出来ます。
むしろ、参加者が非暴力的なフツーの人、近所の交番のお巡りさんに感謝と敬意を持っているようなタダの一般市民であることの方が、警察にとって都合悪く、お巡りさん一人一人にとっても居心地の悪いことなのです。
ですから、たとえピース・アクションに悪意を持っているお巡りさんであっても、私たちは近所の交番のお巡りさんに対するように、笑顔で「おはようございます」「お疲れ様です!」「よろしくお願いします」という気持ちで接しましょう。実際に声を掛けて、こちらのペースを示してみてもいいでしょう。
相手の良心の最善の部分に呼びかけるのが、非暴力的手法というものです。効果はゆっくりしか出てこないかも知れませんが、戦争という暴力で人間が押しつぶされるのはイヤだ、という思いがあるのなら、まずは自分自身が、怒りや憎しみの連鎖を断ち切るよう、少しだけ努力してみて下さい。
【挑発されたら】
「見せしめにしょっぴく」つもりでいる場合、お巡りさんたちは執拗に参加者を挑発します。
大声で怒鳴り続ける、常識では考えられないような仕方で罵倒する、態度で威嚇する……さらには、直接的に突き飛ばしたり、蹴ったりしてくる可能性すらあります。
明日は仕事があるから間違っても連行なんかされたら困る人や、非暴力的に行動する気のない人は、パレードのなるべく内側に場所をとりましょう。外縁部の方がトラブルの可能性が大きいです。
1. 何らかの挑発行為があったら
すかさず周囲にいる人がビデオやムービーケイタイでその様子を撮影しましょう。カメラや録音だけでも、ないよりましです。情報はインターネットで世界に広がります。万が一ケイタイを押収されるようなこともないとは言えませんから、撮影したファイルは、速やかに送信しましょう。主催者から事前の指示があればそれに従い、そうでなくても誰か友達のところで構いませんから、データを広めてしまいましょう。
2. 挑発され、罵声を浴びせられたら
まずはユーモアで返しましょう。
「ゴルァ!! はみ出すなボケェ!!」と言われても、「ああ、ゴメンなぁ~? おばちゃん、最近太ってしもーてなぁ、ホンマかなわんわぁ~」ってな調子でかわしてみましょう。「もっと早く進め!!」と怒鳴られても、急に貧血になったり、足首カクンとなって転んで捻挫したり、虚弱なパレードでヨロヨロと抵抗してみましょう。
個性溢れる皆さんのボケを期待します。
3. 何もしてないのに突き飛ばされたら
そのまま飛ばされるだけで構いません。
このとき肝心なのは、暴力を振るわれたことで傷付いたり、自分に同情したりしないことです。傷付き、自分に同情すると、感情の流れがマイナスの方向に流れて、怒りや憎しみが沸いてきやすくなります。あなたに非はないのですから、傷付く必要はないのです。
たとえ擦り傷ができたって、「だって平和な未来の方が大事だもん♪」と思えば、ピースな気持ちに復活しやすいのでは。
突き飛ばされながら「ア~レェ~」とボケられれば上級者です。
4. 何もしてないのに警官が掴みかかってきたら!
絶対に揉み合わないで下さい。
たとえ最初に掴みかかったのが警官の方であっても、あなたが抵抗すれば、「公務執行妨害!」などと難癖つけられる危険があります。更に激しい暴行を招く危険もあります。
掴みかかられたら、逆に、全身を脱力して地面に倒れ込んで下さい。警官がどーしてもあなたを連行したいなら、まるで死体のように脱力しているあなたを引き摺って行かなければなりません。
もちろん、その様子はきちんと撮影しておきましょう。
その場にいなかった人が映像を見たとき、揉み合って連行される映像と、脱力している無抵抗の人間を警官が引き摺って行く映像では、印象がまるで違います。揉み合って連行されるのは「力の衝突」の映像ですが、無抵抗の者を引き摺って行くのは「一方的な力の行使」の映像です。誰が誰に対して暴力的なのかをシンプルに示すのです。広く共感を集めることこそが、健全な民主的権力の源泉なのですから、一般へのアピール度の違いは重要です。
脱力系の対応は、余計なけがを防ぐ効果もあります。
5. それでも殴る蹴るの暴行が始まってしまったら……
こうなったらもう、自分の命を守るために、頭部と腹部(内臓)を守りましょう。アンモナイトのポーズです。
警察官の習性としては、一応、「相手が完全に沈黙」すれば攻撃をやめるはずです。警官を激昂させないことが重要です。攻撃がやんだら脱力に戻ります。立ち上がったり逃げ出す必要はありません。
周りにいる人は、警官・機動隊員を力で止めようとしても敵わないですし、暴力的な騒ぎが大きくなるだけですので、勇気があり事情が許すなら、むしろ足下から潜り込んで被害者に覆い被さるのが良いでしょう。中に飛び込めない人は、出来るだけ早く弁護士を呼びましょう(出発前に主催者から当日参加弁護士の紹介があるはずです)。また、後で被害報告を出すときのために、よく観察しておくのも重要な役目です。
攻撃がやんで被害者が脱力していたら、警官と揉み合いにならないよう注意しながら、助け起こしましょう。
もしも警官がそのまま被害者を連行しようとしたら、なるべく大勢で進路に立ちふさがりますが、怒りや憎悪の気持ちが大きい人は、必ず背中を向けて立ちましょう(怒りの表情は相手を刺激します)。押されたらそのまま地面に倒れ込みます。その人たちを踏まなければ前進できないようにするのです。「俺の屍を越えていけ!」作戦です。数十人がかりでやれば、かなり迫力があるはずです。
さらに遠巻きの人たちも、警察に抗議の罵声を浴びせるよりも、「ニッポン、チャチャチャ」コールを始めるなど、警官が戸惑うような意外性のある抗議をしてみましょう。
以上、ざっと思いつく限り書いてみましたが、非暴力が単なる無抵抗ではなく、積極的な抵抗の手法だということが、少しは分かっていただけたでしょうか。
主催者側としては……
証拠映像を集めるためにビデオやムービーケイタイの配置を手配する。同じ場所に居続けると警官に目をつけられるかも知れないので、適宜移動する仕組みを作る。
映像などのアップローダを、出来れば複数準備する。送信先を、ムービーケイタイを持っている人のメモリに入れてもらう。また、動画が撮れるだけの空き容量があるかどうか確認してもらう。出来ればファイルを整理して空き容量を増やしておいてもらう。
参加してくれる弁護士にプリ携を準備し、その番号を参加者のケイタイにメモしてもらう。
スタッフは、あらかじめロールプレイで非暴力的対応を練習しておく。
非暴力的対応を参加者に説明するときには、脱力の仕方などを、実際にデモンストレーションしてみせる。
タイーホされたら絶対困るという人がパレードの内側に入れるよう誘導する。
……などなど、知恵を絞らなきゃなりませんね。
それでも、非暴力を守りきれない人は必ず出てくると考えた方がいいでしょう。何よりまず、何かが起こらないよう事前に対応していくのがいいと思います。スタッフはけっこう手一杯になっちゃうでしょうから、あらかじめ、「雰囲気が悪くなってきたところがあったら、早めにスタッフに知らせて下さい」と参加者にお願いしておくのがいいんじゃないでしょうか。知らせがあったら、まずは声を掛けにいって肩の力を抜いてもらうようにする。それでも改善しないなら、マイナスオーラを帯びてる本人か、その周囲の人に言って、パレードの内側に入ってもらった方がいいんじゃないでしょうか。
もう一つ、高齢者やお子さんの参加者のことも考えなきゃならないと思うんですよね。
まずは、トラブルに巻き込まれるリスクの低い内側に、優先的に入ってもらうのを基本にして、「万一の時には私が盾になるぞ」という個人の意思は尊重する、というあたりかなぁ。そういう気概のあるお年寄りって、結構いらっしゃるような気がします。子や孫のためにどんな日本を残すか、高度成長後に生まれた私らなんかとは、覚悟が違いますからね。
一般の参加者にも非暴力トレーニングが行き届く段階になったら、子供連れの女性、高齢者、という分かりやすい記号を前面に押し出すという戦略も考えられるかも知れませんが、まだまだ到底、日本ではその段階には辿り着いていないと思います。
日本のピースムーヴメントも、やっと警察に相手にされる段階に入ったのですから、これは目出度いことなんですよね。ここから先に進むには、ぜひとも非暴力で!
非暴力の原則については、こちらの記事もあわせてお読み下さい。
また、お巡りさんとの付き合い方については、『非暴力』FOR BEGINNERSシリーズ 現代書館なんかが参考になります。もちろん、専門家による非暴力トレーニングの本も何冊か出ています。
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Comments
はじめまして、PPFVと申します。
トラックバックありがとうございます。
記事とても興味深く拝見しました。こちらにたどりつくきっかけ作っていただき感謝しております。
リンクはらせていただいてよろしいでしょうか。
今後ともどうぞよろしくお願いします。
Posted by: PPFV | July 07, 2004 21:47
>PPFVさん
こちらこそ始めまして。辺境の非暴力パラダイスへようこそ。
リンクどころか著作権フリーの方針ですので、何のご遠慮もいりません。
今後ともよろしくお願いします♪
Posted by: shimada | July 08, 2004 06:23