マルコス ここは世界の片隅なのか
このところのマイブーム、非暴力と仮面ライダークウガに絡んで思い出したので、だいぶ前に読んだ本なんだけど。
『マルコス・ここは世界の片隅なのか―グローバリゼーションをめぐる対話』イグナシオ・ラモネ 現代企画室 2002年
メキシコ チアパス州は、天然ガスと石油が採れる豊かな土地だが、そこに住む先住民たちは「世界で最も見捨てられた人々」であり、独自の歴史と文化と言語と価値観を持っていながら、数百年にわたって、自らを「否応なく消え去っていくものとして見るよう強制」されてきた。
1994年1月1日、サパティスタ民族解放軍を名乗る先住民の蜂起があり、チアパス州の4都市を占拠した。このときから、「マルコス副司令官」という覆面のスポークスマンが、主にネットを通じて世界に向けて発言を始める。先住民の権利主張などという単純なことではなく、人々の運命を握るようになった市場原理主義、グローバリゼーションへの彼の鋭い批判は、世界中のNGO、市民団体、著名な知識人を含む個人との連帯を生み出した。
この「サイバー・ゲリラ」の効果はあまりに絶大で、蜂起から11日後には「マルコスが武器を取るという選択を最終的に放棄するほど」だった。
見えざる者達として扱われてきた先住民のスポークスマンが覆面をかぶるという象徴性。ゲリラでありながらテロ襲撃も、暗殺も、爆弾を仕掛けることもなく、分離独立を要求することなく、逆にチアパスとインディオがメキシコ社会により上手く組み入れられることを要求する、時に非暴力的ですらある「軍隊」(彼らは軍隊として認められるためのすべての国際規約を尊重して、識別可能な軍服と階級の記章を着けている)。
マルコス副司令が語る彼らの目的は「民主主義と正義と自由を要求するためにもはや地下にもぐったり武装したりする必要がなくなる」ことであり、「われわれは消滅するために闘っている」のだという。「われわれは、いつの日か兵士がもはや必要でなくなるようにするために兵士になった戦闘員なのです。われわれは、もう兵士がいなくなるようにするための兵士なのです」。
……この本を思い出したのは、仮面ライダークウガの最終回で、主人公の妹が保育園の子供に言った台詞からだった。「4号は本当はいちゃいけないと思ってるの。4号がいなくていい世の中が、一番だと思うんだ」
子供向け特撮ヒーローもので、子供に向かってヒーローがいちゃいけないと語りかける場面を最終回に持ってくるところが、スゴイと思いました。(他にも凄いこと言わせるなと思ったのは、「悩まないで、もっと楽しいモノを買って、楽しいことにお金を使え」ってテレビが言っているような気がする、という台詞)
で、まさに「いなくなるための軍隊」であるサパティスタのことがすぐに思い浮かんだわけです。
「いなくなるための軍隊」というのは、非暴力論としても興味深いし、非暴力的な紛争解決の仕組み作り、非暴力的な社会の構築に向けても、考えてみるべき問題だと思います。
さらに、「自分が最後の一人でありたい」という、消滅に向かうものとしての自己認識(存在がほとんど祈りみたい!)は、とても今日的な英雄像だなとも思うのです。最後の兵士、最後の放射性廃棄物管理人、最後のPCB処理技術者……。いらないものが多すぎる世界だから、たくさんの汚染を垂れ流した文明だから、その始末をつけるための最後の一人でありたいという、これまでと逆の英雄像と、切ない希望に満ちた悲劇が、可能なんじゃないかな。
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