春風Co.,Ltd.,
坂田靖子さんのファンタジー漫画『水の森綺譚』の5巻に、「春風Co.,Ltd.,」というお話がある。
そよぐ春風に「気持ちいいなぁ」と主人公が呟くと、どこからとも無く春風請求書が届く。支払いを拒否すると「姿」を差し押さえられ、透明人間になってしまう。が、主人公は逆に「これなら魚に気付かれない」と、大好きな釣りに行くのだが、湖にはいつの間にか有料釣り堀の看板が! 怒った主人公は気弱な友達を連れて反撃に出る…というお話。
徹頭徹尾ファンタジーなのだけど、実に、見事に、「自由化・民営化」問題を突っついてる。
勝手に吹いてくる春風を有料化するなんて、いかにもファンタジーの悪役的なナンセンスだけど、現実世界でも似たようなことが起きてる。
大昔からの「暮らしの知恵」だった植物の薬効を企業が“知的所有権”で囲い込み、それまで何百年何千年とそれらの植物を利用してきた人々が、特許料を払わなければ使えないようにしてしまう……なんてことが行われようとしてる(たとえば、危うく特許取り消しに成功したインドのニームの木など→こちら)。
人が生きていくために不可欠な「水」の供給は、日本ではまだ今のところ公的に行われているが、これが規制緩和の掛け声のもとに民間企業に任されると、アトランタのように茶色い水が出るなどサービスの低下が目立ったり(こちら)、さらに深刻なのは、料金アップにより貧困層が水道を使えなくなり、不衛生な雨水などを利用せざるを得なくなるなどの問題が起きている(たとえばこちらなど)。
「春風Co.,Ltd.,」では、主人公は春風で苗が倒れたと損害賠償を請求し、さらに太陽の光と朝夕の露と空から降る雨を自分のものだと逆に主張して、有料釣り堀となった湖の魚や魚の卵がそれらを利用する料金を請求する、という反撃に出る。ナンセンスにナンセンスで対抗する胸のすく反撃だが……現実ではそうも行かないよね。
自由化・民営化というのも市場原理主義に基づくグローバル化の流れの一側面で、それをファンタジーで寓話化するというのは……私にとって尽きせぬ野望だなぁ。「春風Co.,Ltd.,」を読んだとき、やられたぁ!と声を上げました。
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