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November 08, 2001

非暴力漫画シリーズ2 トライガン & トライガン・マキシマム

内藤泰弘 TRIGUN 全3巻 徳間書店
TRIGUN MAXIMUM 1~9(YOUNG KING OURs連載中) 少年画報社

詰まらんとばっちりで話題になりましたが、腹を立てるのはたいがいにしとこうと思いました。
あたしのマスコミ嫌いは昨日今日に始まったことじゃないしな。
だってヴァッシュは「悪者扱い」には慣れっこで、でも全然傷つかないほど心は頑なじゃなくて、それでも、笑顔でいられる強さも、揺るがない真実も持ってること、私たちファンは知ってる。
だから心無い報道にも、ヴァッシュならヘラヘラ笑って頭でも掻いてるんじゃないかな~。
事件を起こした少年に向かっては、きっと、「人様にメーワクかけたらまずゴメンナサイだろーがッッ」とか言ってしばきつつも(ゴメンナサイとアリガトウが言えない子供にヴァッシュは意外と厳しかった in トライガン1巻)、「友達になろうよ」光線バリバリで近づいていくんじゃないかな……。
「未来への切符はいつも白紙だ」
レムも、ヴァッシュも、繰り返し読者にメッセージを投げ掛けてくれた。
だから事件を起こした少年にも、もう一度そのメッセージを届けてあげたいよ。
彼がトライガンを、読み返すことが出来たらいいな。
ヴァッシュは彼のような子供にこそ言いたかったんだと思う。

「じゃあ、仕切り直せよ。死なせるな、裏切るな。幸せを掴め、夢を語れ!! 未来への切符は……いつも、白紙なんだ」

 一部ネタバレあり

 舞台は熱砂の惑星。
 星間移民船団は、降り注ぐようにその惑星に不時着し、生き残ったわずか数%の命が、大地にしがみつくように命を繋いできた。それから150年……
 ……という設定の、SF西部劇タッチの非暴力マンガ(暴力シーンあり)。お気に入りです。

ヴァッシュ・ザ・スタンピード
 主人公は、情けないほどの平和主義者。「愛というカゲロウを追い続ける平和の狩人……みたいなカンジ?」(本人談)。
 その名もスタンピード(stampede 「とっとと逃げ出す」の意)──逃げのヴァッシュ……暴走とも言うが。
 本人は平和主義だが、「慢性トラブル症の危険人物」(メリル談)で、多額の賞金がその首に掛かっているお尋ね者でもある(後に賞金は取り下げられ、人間初の局地災害指定を受ける。曰く、人間台風)。
 普段はヘラヘラしていて町のガキどもにアゴでこき使われる始末。争いを好まずなぁなぁで済まそうとする事なかれ主義者であるが、困っている人をほっとけない(→だから、どこに行ってもトラブる)。

 奇跡のような早撃ちの腕を持っているのだが、いざ撃ち合いにまで追い込まれても、傷だらけになりながら相手の急所ははずす。たとえ相手がどんな「悪人」でも、殺人鬼でも。

 彼の設定は当初、謎めいていて、どうやら150年前の移民船団墜落の当事者らしいのだが……

ヴァッシュが命を愛する理由
 150年前、墜落していく移民船団を、自分の命と引き替えに、全滅から救った女性がいる。レム・セイブレム。ヴァッシュの心のヒトである。
 この手の「心のヒト」キャラは、「大切な」「憧れの」という以外にわりと中身のないキャラになりがちだが、レムは違う。
 女の私が見ても、信念を持ち、行動する勇気と決断力を持った、いい女だ。
 レムは、母星・地球を死に追いやった(愚かな)人間たちの「延命行為」である星間移民を、「それでも、生きようとする意志がここにはあるわ」と、強く肯定。
 ヴァッシュは彼女が守った命を、守り続けようとしている。

「いのちの灯がひとつでも消えると 彼女はきっと悲しむ」
 ヴァッシュは、彼女が死んでからの長い日々の中で、繰り返し、心の中のレムと対話する。
 「プラント」と呼ばれる生体機器の生産能力に頼らねば生きられない過酷な熱砂の惑星で、奪い合い、争い合う人間たちに巻き込まれ、ヴァッシュは思う。
「そんな所で、そうまでして、何の為に人は生きてるんだろう」
 レムは微笑む。
「私は、生まれた時に手わたされた切符が白紙なのにドキドキしてる。
征き先[なにができるか]を自分の胸に訊くだけで精いっぱいだよ」
 このシーンは、アニメ版の演出もよかった。町中で破壊を繰り広げる追っ手をついに追い詰めたヴァッシュが、その追っ手の頭に銃口を突きつけながら、レムのこの言葉を思い出し……そして、ヴァッシュ自身、「精いっぱいだよ……」と泣きながら呟く。もちろん、ヴァッシュは追っ手を撃たないさ!

メリル & ミリィ

 レギュラーで登場する女性キャラは、「局地災害」指定されたヴァッシュの「リスク回避業務」のために派遣された、保険会社のOL二人組という、ちょっと気の利いた設定だ。

 のほほんとマイペースな二人は、けっこうな修羅場に遭遇してもヴァッシュの真実を見失わないでいてくれる存在だ。
「確かに何度も危ない目には遭いましたけども、
 ヴァッシュさんは皆が思っているのとは全く違って
 『人間として』ごくまともな方でしたから……」

ニコラス・D・ウルフウッド

 でっかい十字架の包み(実は中身は銃器)を背負って旅するヤクザなグラサン・黒服、なぜか関西弁の巡回牧師。
 教会でひきとった子供たちのために、牧師以外の裏稼業でも稼いでいるのだが……

 旅の途中でヴァッシュやミリ・メリたちと知り合い、やがてヴァッシュと行動をともにしながら深く関わっていくことになる。
 無印「トライガン」3巻より登場。でも、本領発揮は「マキシマム」突入後ですね。

 ウルフウッドの手は血で汚れている。彼の葛藤は、とてもよく描かれている。
 ヴァッシュの「殺さない」信念と、彼は繰り返し対立し、それが物語に深みを与えてくれる。
「しゃあないやろ。
 誰かが牙にならんと
 誰かが泣くことになるんや……」

「ワイはな、トンガリ(注・ヴァッシュのこと)……
 絶対に死ねへんのや、ガキ共のためにな。
 危ないと思たらためらいなく引き金を引く。
 祈りながら。
 頭に二発、心臓に二発」
 ヴァッシュのようにギリギリまで遊んでる余裕はない、という彼に、ヴァッシュは答える。
「……余裕なんかじゃないよ…
 …そんなんじゃない……
 ただ……ずっと考えてるのに
 答えがわからないだけだ……」
 ウルフウッドがヴァッシュへの非難、懐疑を表明するたびに、作者は、ヴァッシュに何かを答えさせている。それが完全な「解答」ではなくとも。
「一人も殺せん奴に、一人も救えるもんかい。
 ワシら神さまと違うねん。
 万能でないだけ鬼にもならなアカン……」
「ウルフウッド……
 でも、やっぱり、それは言葉だ。
 今そこで人が死のうとしている
 僕には その方が重い」

「弱虫はおまえのほうだ ウルフウッド
 なんでもかんでもあっさり見限ってる……」
 読者が、ヴァッシュの考えを甘いと見るかどうかは、当然、読者に任されている。
 でも、ウルフウッドの血まみれの覚悟なしにヴァッシュを非難するのは、それこそキレイごとの偽善(っつーか偽悪ぅ?)じゃなかろうかと私は思う。

 アニメでのウルフウッドには、最後、泣かされてしまいましたが、マンガではまだまだこれからです。
 何とか、彼の祈りが届くような展開を願ってます。重たい十字架を背負って、それでも、ウルフウッドが引き金を引かずに済むことを……


ナイヴス、レガート、GUNG-HO-GUNS

 ヴァッシュの「兄弟」であり光に対する影であるナイヴスは、人類を深く憎悪している。
 もうほとんどイッてしまっている御方として描かれているから、個人的に共感はないけど、まぁ、人間がろくでもないもんだってのは、今の地球を見りゃ大概明らかだよね。人間がいなくなれば、地球はきれいになるだろうって、私だって考えるもんな。

 そのナイヴスに仕えるレガート。
 アニメ版では「私は無に帰りたい」なんて言うセリフもあった。
 彼の闇も、今後もっと描かれることを期待します。
 そして、たとえヴァッシュがレガートに引き金を引くことになるのだとしても、アニメの時のように「自分が人を殺した」ことだけに打ちのめされるのではなく、ヴァッシュが、レガートの死をほんとうに哀しめるよう願います。(パーム・シリーズ「殺人衝動」で、JBはサロニーを殺したけど、サロニーは「救われてる」……レガートも、物語で救ってあげて欲しい)

 ヴァッシュを追い詰めるために繰り出される「魔人」たち──GUNG-HO-GUNS。
 それぞれに個性あり、葛藤ありの魅力的な敵キャラたちだけど……今のところ、ヴァッシュも物語も、彼らのうち一人も「救えて」ないような気がする。5巻に収録される部分では、ちょっと違う展開もあるらしいので、期待してます。

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